研究部会の活動報告

2024.03.08更新

地域部会

岡山地域部会(第5期), 2018-2021年度

岡山地域部会は,岡山県および近隣地域の行動計量学に関する研究と研究者間の人的交流を積極的に行うことを目的として,日本行動計量学会から活動経費の助成を受けて活動を行ってまいりました.

新型コロナウイルス感染症の流行により,地域部会の活動は制約を受けました.2019年度に開催を計画していた2回の研究会(うち1回は行動計量シンポジウムとして)は中止を余儀なくされました.その後も,岡山大学のガイドラインに基づき,対面での研究会開催には感染予防のための面倒な手続きが必要となったことから,オンラインでの開催を余儀なくされました.世話人の力量不足により,年4回の開催義務を果たすことができなくなりました.学会関係者の皆様に深くお詫び申し上げます.

岡山に集まっていただくことが困難な状況が続き,地域での研究活動の活性化という地域部会の趣旨に沿った活動の実現には課題が残りました.世話人としての活動を終えますが,岡山地域での行動計量学ならびに統計科学の推進・普及の枠組みを再構築すべく,今後とも尽力いたします.

第5期(2018年度~2021年度)の活動を以下にまとめます(講演者のご所属は講演当時のものです).ご協力いただきました,学会関係者,講演者,参加者はじめ地域部会の皆様に,心より御礼を申し上げます.

・2018年度(研究部会:68回,69回,70回,71回)

68回研究会(20181027日)は「研究IR の現状と展望」と題して,大学・研究機関による意思決定を支援する調査研究として注目を集めているInstitutional Research (IR)について,第一線で研究をされている水上祐治先生(日本大学),藤野友和先生(福岡女子大学)のお二人にご講演いただきました.

69回研究会(20181223日)は「事前・事後テストデザインにおける処遇効果の評価―事前テストの測定誤差の影響」と題して,バージニア工科大学の宮崎康夫先生に来岡いただき,教育心理分野の調査研究で見られる処遇効果の評価の問題についてご講演いただきました.

70回研究会(201932日)は「Simple and Multiple Correspondence Analysis」をテーマとして,質的データの分析手法であるコレスポンデンス分析の著書を出版されているRosaria Lombardo先生(University of Campania “Luigi Vanvitelli”) をイタリアよりお迎えして,カテゴリ間の連関のグラフ表現などについてご講演いただきました.講演は英語で行われました.?

71回研究会(2019316日)は「データの分析手法とその応用」と題して,若手研究者の育成を目的として,学生セッションを設けて開催いたしました.発表者は10名(岡山大5名,岡山理科大2名,広島大3名)で,教員参加者による審査を行い,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.全体レクチャーでは林邦好先生(聖路加国際大学)に「AI 技術と統計手法を用いた医療画像データ解析の実際」という題名でご講演いただき,深層学習と統計手法の興味深い活用事例が紹介されました.

・2019年度(研究部会:72回,73回)

72回研究会(2019921日)は「経時データの解析」をテーマとしました.製薬企業や医療関係の研究所にも勤務経験のある丸尾和司先生(筑波大学)に「経時データにおけるモデル誤特定について」という題名でご講演いただきました.臨床試験などで得られる経時応答データに対する繰り返し測定混合モデル(MMRM)解析において,欠測メカニズムの誤った仮定が治療効果の不確実性の推定に及ぼす影響など,最新の研究についてご紹介いただきました.?

73回研究会(2020125日)は,日本各地で開催されている統計処理ソフトウェアRの勉強会を岡山でも「okayama.R」として立ち上げることになり,その第1回会合との共催として開催しました.Rなどの統計ソフトウェアやデータサイエンスに興味ある方々に参加いただき,関連技術や業務効率化などについて,情報交換を行う場となりました.特別講演として,山川純次先生(岡山大学)に「RWebGIS による環境汚染物質分布評価」と題してご講演いただきました.

その後,学生セッションを202037日に開催することを企画し,10名の学生からエントリーいただきました.また,岡山大学が文部科学省「数理及びデータサイエンスに係る教育強化」の協力校に指定されたことを受け,岡山大学主催「数理・データサイエンス教育シンポジウム」を行動計量シンポジウムとの共催として同年320日に開催する計画でした.しかしながら,この頃に新型コロナウイルス感染症が流行することとなりました.当時はオンライン開催のノウハウが蓄積されていなかったことから,両方とも開催を延期するしかありませんでした.

なお,諸事情により行動計量シンポジウムとの共催とすることができませんでしたが,上記教育シンポジウムの代替として,20213月に岡山大学主催により「数理・データサイエンス教育ワークショップ」を開催いたしました.

・2020年度(研究部会:74回)

新型コロナウイルス感染症流行の収束の目途が立たないことから,研究会の開催を当面見合わせました.オンラインによる開催の方法を模索し,何とか下記の回のみを開催いたしました.

74回研究会(202136日)は「データの分析手法とその応用」と題して,学生セッションを設けて開催いたしました.発表者は8名(岡山大3名,福岡女子大1名,広島大4名)で,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.全体レクチャーでは藤野友和先生(福岡女子大学)に「Rによるe-Statのデータ取得および可視化」という題名でご講演いただきました.

・2021年度(研究部会:75回,76回,77回)

75回研究会(20211113日)は,「データ構造の解析と可視化の方法」と題して,梶西将司先生(中国学園大学),姜佳明先生(岡山大学)の若手研究者2人にご講演いただきました.梶西先生はホットスポットクラスター検出のためのソフトウェア開発と空間データの構造解析について,姜先生には社会ネットワーク分析法を用いた特許権の分析について,それぞれご講演いただきました.?

76回研究会(202236日)は「データの分析手法とその応用」と題して,学生セッションを設けて開催いたしました.発表者は12名(岡山大3名,岡山理科大2名,広島大3名,徳島文理大2名,福岡女子大2名)で,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.

77回研究会(第106回行動計量シンポジウム)(2022319日)は,新型コロナウイルス感染症の流行を逆手にとり,「COVID-19データの可視化と統計解析」というテーマを企画しました.オンライン開催が功を奏し,岡山以外からも多くの方々にご参加いただきました.

石岡文生先生(岡山大学)には,空間スキャン検定を用いた東京都のCOVID-19陽性者の時空間クラスター分析についてご紹介いただきました.久保田貴文先生(多摩大学)には,コロナ禍における精神的不安や希死念慮に関連するTweetデータのテキスト分析をご紹介いただきました.棚橋真弓先生・山本義郎先生(東海大学)には,COVID-19感染状況の可視化手法とインタラクティブな可視化システムの構築についてご講演いただきました.分析を行うにあたってのデータの収集方法などについて,講演者と参加者の間で活発な議論が行われました.また,特別講演として,岡山県クラスター対策班疫学チーム中心メンバーで,県内の感染状況と医療提供体制の分析,新型コロナウイルスワクチン接種後副反応調査などに携わっている頼藤貴志先生(岡山大学)に,「新型コロナウイルス感染症と疫学の関わり、そして今後の展望」と題してご講演いただきました.

岡山地域部会(第4期), 2014-2017年度

本部会は,岡山県と近隣地域の行動計量学に関する研究と研究者間の人的交流を積極的に行うことを目的に,日本行動計量学会から活動経費の助成を受けた行動計量学岡山地域部会の継続で,第4期(2014年度~2017年度)が終了しました.各年度の研究部会の活動報告は次の通りです.

・2014年度(研究部会:52回,53回,54回,55回)

第52回研究会は「ビジュアルデータマイニングと統計計算」というタイトルで,坂本亘先生(岡山大学),森裕一先生(岡山理科大学),Jurgen Symanzik(Utah State University)を講師に招き,5月31日(土)に開催しました.この研究会では,ArcView や XGobi の開発にかかわられている米ユタ大学のJurgen Symanzik 教授が韓国全州大学をサバティカルで訪問している機会を利用し,岡山理科大学にお招きしました.また,坂本先生と森先生には,統計計算アルゴリズムの紹介と数値実験による性能比較の結果を紹介頂きました.

第53回研究会は「潜在ランク理論の応用とソフトウェアの開発」というタイトルで10月31日(土)に開催しました.講師に清水裕士先生(広島大学)を講師に招き,清水先生が開発されたExcelで動作する統計ソフトHADの紹介と,潜在ランク理論についての最新の研究成果についての報告をして頂きました.

第54回研究会は「経済およびマーケティングの話題を中心として」というタイトルで,講師に三原裕子(岡山理科大学),柳貴久男(岡山理科大学),林俊克(就実大学)を講師に2月28日(土)に開催しました.三原先生からは幼児早期の死亡率低下に関する援助が経済発展に与える効果について,柳先生からは家計調査から見た岡山市の姿を,そして,林先生からは地方中堅私立大学に求められる価値についての報告をして頂きました.

第55回研究会は「データの分析手法とその応用」というタイトルで開催しました.この研究会は,大学院生を中心とした学生発表の会であり,岡山大学から1名,岡山理科大学から3名,大阪大学から1名,広島大学から4名の合計9件の発表があり,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.また,全体レクチャーでは,栁原宏和先生 (広島大学)に「情報量規準とバイアス補正」というタイトルの講演をお願いしました.

・2015年度(研究部会:56回,57回,58回,59回)

第56回研究会は「次元縮約とクラスタリング」というタイトルで,山本倫生先生(京都大学医学研究科医学統計生物情報学)とMichel van de Velden先生 (Econometric Institute, Erasmus University Rotterdam)を講師に招き,7月29日(土)に開催しました.山本先生は「DROC: An outcome-guided clustering using a component-based approach」,van de Velden先生は,「Cluster Correspondence Analysis」と「Least-squares Bilinear Clustering of Three-way Data」というタイトルでの講演をして頂きました.

第57回研究会は「統計教育」というタイトルで,Zenaida F. Mateo先生 (Department of Statistics, University of Manitoba, Canad)を講師に招き,9月26日(土)に開催しました.講演タイトルは,「An Overview of the Postsecondary Education in Canada and the Future of Statistical Education Research」と「Clicker Technology: Promoting Student Interaction in a Large Statistics Class Environment」で,カナダの大学における統計教育への取り組みを通じて,その方法論と統計研究についての講演をお願いしました.Mateo先生のクリッカーを利用した先進的な取り組みに対し,講演時間を超過するほどの多くの質問があり大いに刺激を受けたように見受けられました.

第58回研究会は,「統計モデルの理論と実データへの適用」というタイトルで,寺田吉壱先生(情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センター),酒折文武先生(中央大学),黒澤大樹さん(中央大学大学院)の3名を講師に招き,10月24日(土)に開催しました.寺田先生には,「fMRIデータ解析に関する研究」,酒折先生には「スポーツと統計科学」と「隠れマルコフモデルを用いた東日本大震災の分析」,黒澤さんには「低階数行列のモデリングと画像処理」というタイトルでの講演をして頂きました.各講師には,統計学の実データへの応用についての話題を提供して頂きました.

第59回研究会は「データの分析手法とその応用」というタイトルで3月12日(土)に開催しました.この研究会は大学院生を中心とした学生発表の会であり,岡山理科大学から6名,島根大学から3名,広島大学から2名の合計11件の発表があり,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.また,全体レクチャーでは,山本英二先生(岡山理科大学)に「因果推論入門」というタイトルの講演をお願いしました.

・2016年度(研究部会:60回,61回(101回シンポジウム),62回,63回)

第60回研究会は「大規模データ処理とIR(Institutional Research)」というタイトルで計数理研究所の共同利用研究(重点テーマ4「学術文献データ分析の新たな統計科学的アプローチ」)との共同企画で2016年9月22日(木)に開催しました.本多啓介先生(統計数理研究所),藤野友和先生(福岡女子大学),水上祐治先生(日本大学)を講師に招き,大学のIR(Institutional Research)においても重要視されている大規模データの処理方法についての最新の研究成果をご発表頂きました.

第61回研究会(第101回行動計量シンポジウム)は「実データによる統計教育とデータサイエンティストの育成」というタイトルで9月24日(土)に開催しました.このシンポジウムでは,ビジネスをはじめ,あらゆる分野で,データサイエンスの重要性が増す中で,大学と企業における人材育成の現状の講演をして頂き,これからの統計教育やデータサイエンティストの育成について議論をおこないました.講演者は,横山暁先生(帝京大学経済学部),山口和範先生(立教大学経営学部),小木しのぶ氏(㈱ NTTデータ数理システム)であり,横山先生には研究室単位での統計の実学的教育,山口先生には全学的な統計教育の取り組み,そして小木氏には企業で求められる統計スキルについての報告がありました.質疑応答では,企業からの大学での統計教育の問題点の指摘や,高校教員からの大学への接続といった大学教育への要望があり,大学教員にとっては今後の統計教育の在り方について参考になることが多々あり,非常に有意義なシンポジウムになりました.

第62回研究会は「HadoopとSpark/Rによるビッグデータ解析」というタイトルで,山本由 和先生(徳島文理大学)を講師に招き,12月10日(土)に開催しました.この研究会では,大規模データの処理のためのHadoopと統計解析パッケージRを利用したビッグデータ分析がマーケティングデータ分析のビジネスでの活用方法についてセミナー形式でご講演いただきました.この研究会には, Hadoopの導入を検討している企業等からの参加者もあり,研究会終了後も実務的な質問あるなど活発な議論が交わされました.

第63回研究会は「データの分析手法とその応用」というタイトルで3月18日(土)に開催しました.この研究会は,大学院生を中心とした学生発表の会であり,岡山理科大学から3名,島根大学から1名,広島大学から4名の合計8件の発表があり,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.また,全体レクチャーでは,中川重和先生(岡山理科大学)に「正規性の検定について」というタイトルの講演をお願いしました.

・2017年度(研究部会:64回,65回(103回シンポジウム),66回,67回)

第64回研究会は「多変量カテゴリカルデータに内在する低次元クラスター構造の推定」というタイトルで10月7日(土)に開催しました.山本倫生先生(岡山大学),寺田吉壱先生(大阪大学),宇野光平さん(大阪大学大学院人間科学研究科)を講師に招き,次元縮約の計算アルゴリズムの紹介とその性能検証,および数理的考察についての最新の研究成果をご発表頂きました.

第65回研究会(第103回行動計量シンポジウム)は「マーケティングデータの解析とオープンデータの利用」というタイトルで,中山厚穂先生(首都大学東京),鶴見裕之(横浜国立大学),新免國夫氏(一般社団法人データクレイドル)を講師に招き,11月11日(土)に開催しました.このシンポジウムでは,企業データと公共データの解析および活用についてご発表頂きました.企業と大学教員との共同研究の進め方及び関わり方や,オープンデータの活用について参考になることが多々あり,活発な議論がこの会で交わされました.

第66回研究会は「統計教育の実践と理論」というタイトルで2月10日(土)に開催しました.福田博人先生(岡山理科大学)と藤木美江先生(愛知淑徳大学)を講師に招き,福田先生には日本における統計教育の現状と今後の在り方についての講演を,藤木先生には,先生ご自身が勤務校で実施した質問紙調査を用いた実践的教育と評価方法についての報告をご発表頂きました.

第67回研究会は「データの分析手法とその応用」というタイトルで開催しました.この研究会は,若手研究者を育てることを目的に,大学院生を中心とした学生セッションを設けており,岡山大学から4名,岡山理科大学から3名,島根大学から1名,広島大学から4名,そして東京理科大学からも1名の合計13件の発表があり,優秀賞1名とプレゼン賞1名を表彰しました.また,全体レクチャーでは,若木宏文先生(広島大学大学院理学研究科)に「ラプラス近似とその応用」というタイトルの講演をお願いしました.

岡山地域部会のWebページは,http://mo161.soci.ous.ac.jp/bsj_okayama/ で,研究会の予定などを公開しています.

研究グループ

心理モデリング部会, 2019-2020年度

概要

本研究部会では,心理学領域におけるベイジアンモデリングの活用例を多く取り上げ,その有用性や限界点などについて議論を深めることを目的としている。

そのための活動内容として,メンバー相互の情報交換を継続的に行うことはもちろん,心理学に関する研究例をモデリングの観点から再構築,再検証したり,モデルドリブンの研究アイデアを実践すること,さらにベイズ推定を実際に行う際のノウハウの蓄積を目指す。またこれらの研究や知識・情報は常に開かれた姿勢で行われることが望ましいと考えており,本学会の大会はもちろん,心理学に関する他学会でも積極的に成果報告を行うことで,研究会や学会の活性化を目指す。

研究計画

毎年の学会大会において,本部会のテーマにあった研究発表を行い,議論を通じて理解を深める。

また不定期に開かれる研究集会においては,同様の研究発表の他に関連書籍の読書会も行う。

その他にも,Slackを中心としたグループウェアを通じて,随時情報交換を行う。

活動報告

学会大会

2019年度においては,日本行動計量学会第47回大会(大阪大学豊中キャンパス)において, 特別セッション「心理学におけるモデリングアプローチ」を設け,以下9件の発表を行った。認知的情報処理のモデリングから,集団・社会現象に対するモデリングまで広い領域に応用されている例が紹介され,多くの来場者と共に活発な議論がなされた。

2020年度は,日本行動計量学会第48回大会(早稲田大学戸山キャンパス)において,特別セッション「心理学におけるモデリングアプローチの展開」と題し,以下10件の研究発表を行った。昨年に続いて,犯罪心理学,学習心理学,社会心理学など応用的領域の研究から,認知処理やテスト理論に関するモデリングなど,幅広いテーマが扱われている。

研究集会

2019年度の夏の集会は,8月10日から12日にかけて,静岡県浜松市で開催。部会員の他にも学部学生などが参加し,MCMCのアルゴリズムや実験経済学・認知心理学などでの確率モデルだけでなく,解析環境を保存しモデルの再現可能性を高める取り組みなどについて相互に情報交換を行った。参加者は総勢34名であった。

春の研究集会は2020年2月22日から24日にかけて,岡山県岡山市で開催。「社会科学のためのベイズ統計モデリング」(朝倉書店)の著者である浜田宏先生 (東北大学) ならびに石田淳先生(関西学院大学),「RとStanではじめる ベイズ統計モデリングによるデータ分析入門」(講談社)の著者である馬場真哉先生 (Logics of Blue管理人)をお招きし,改めてベイズ統計モデリングの基礎から,情報統計学の観点からみたモデルの作り方,モデル評価などについて意見交換を行った。参加者は総勢33名であった。

2020年度はその後,コロナ禍の影響で研究集会を開くことができなかった。

その他

人工知能学会合同研究会2019(慶應義塾大学矢上キャンパス)における人工知能基本問題研究会,企画シンポジウムにおいて,部会メンバーが話題提供をおこなった。発表題目等は以下の通りである。内容は認知メカニズムに関するモデル,臨床心理学にも応用可能な学習心理学のモデル,社会心理学や教育心理学的観点からデータを解析するモデルなど心理学のバックグラウンドに根ざした統計モデルだけでなく,交通行動からは反応時間から注意力を計算するモデル,ウェブ閲覧者の行動データを予測・説明するモデル,さらに麻雀ゲームの解析から麻雀というゲームの特徴や構造を見出そうとするモデルなど,応用可能性の高いモデルが紹介された。

非対称分析のための理論と応用, 2018-2019年度

この研究部会では,2者間の関係を考える場合に,その関係が対称的な関係ではなく,知人間の関係やネットワーク上の対話量など,本質的に非対称な関係が想定される場合について,その分析のための理論および方法について研究し,行動計量学の研究範囲をより広げるために以下のような研究計画のもとに活動を行なった.

・研究計画

社会行動科学から自然科学に至る広範な分野で観測される非対称関係データに関する計量心理学、数理心理学、数理統計学、地理学、政治学、社会学、マーケッティング、生物学、物理学、化学分野などでの各種のアプローチについて、各分野の研究者の間の学会発表等の相互交流を継続的に行い、非対称データを発生せしめる現象に関する学際的な理論的研究や応用研究について,以前の研究部会による成果も踏まえて行う。

・活動

2018年度においては,日本行動計量学会第46回大会(慶應義塾大学三田キャンパス)において, 特別セッション 非対称データの分析-理論と応用-を設けて,以下の4件の研究発表を行った.
・An elementary theory of a dynamic weighted digraph
○千野 直仁(愛知学院大学心身科学部)
有方向性グラフに関する時間軸での変化を捉えるための理論に関しての発表がなされた.
・単相 2 元非対称多次元尺度構成法の比較と検討 -距離モデルの場合-
○岡太 彬訓(立教大学),今泉 忠(多摩大学)
非対称類似度/非類似度を分析するためのモデルと手法について.Distance-radiusモデル,slide-vectorモデル,2相2元データとみなすモデルについて比較検討がなされた.
・対角要素に依存しない slide vector model の提案
○今泉 忠(多摩大学経営情報学部),岡太 彬訓(立教大学)
単相2元非対称類似度行列を分析する slide-vectorモデルでは同一の対象間の類似度が分析に影響する.そこで,この部分に影響しないモデルについて提案された.
・2 相 3 元 Dominance 点モデルを用いた Functional MDS について
○土田 潤(東京理科大学工学部情報工学科),宿久 洋(同志社大学文化情報学部
複数の時点から2 相 3 元非対称類似度行列を分析するためのDominance 点モデルにおいて,布置とDominance点が直行行列の変換のもとで変わるとしたモデルを提案した.

また,2019年度 日本行動計量学会第47回大会(大阪大学吹田キャンパス)では,次の特別セッションを設けて,非対称分析の理論と応用に関する研究促進を図った.
・An elementary theory of a dynamic weighted digraph (2) Its relation to the theory of evolutionarily stable strategy
○千野 直仁(愛知学院大学心身科学部)
2018年度の継続研究の成果の発表がなされた.特に微分方程式による表現の場合のその性質について発表がなされた.
・スライドベクトルを用いた Distance-association model について
○土田 潤(東京理科大学工学部情報工学科),宿久 洋(同志社大学文化情報学部)
スライドベクトルモデルを対象×項目からなる2相2元データへの適用としてDistance-association modelを提案した.特に反応確率を要素とするデータ行列への適用モデルについて提案された.
・単相 2 元非対称類似度行列の楕円モデルの適用可能性
○今泉 忠(多摩大学経営情報学部)
Distance-radiusモデルの拡張として,非対称関係の表現として円ではなく楕円を用いたモデルについて説明され,どのようなモデルを選択するかについて発表がなされた.
・画像データの分類によるブランドイメージの類似性と混同についての分析
○中山 厚穂(首都大学東京大学院経営学研究科)
Webに投稿されている写真データやビデオデータに対しての非対称多次元尺度構成法の適用について発表された.特に,写真データやビデオデータの解析ではCNNモデル よる深層学習モデルが適用された.
・特性に基づくブランドの評価
○岡太 彬訓(立教大学),鶴見 裕之(横浜国立大学)
ブランド選択の変化を捉えるために,特に,ブランドスイッチングにおける優劣関係を明らかにするために,3時点の隣り合う2時点間のブランドスイッチング行列の差の行列について特異値分解を用いた非対称多次元尺度構成法による分析について発表された.
発表タイトルも理論に関する発表や応用に関する発表などがあり,また,分野も広いものであった.

また,2019年度では,広く研究部会メンバー以外も含めるように,ラウンドテーブルを設けた.話題提供として多摩大学の今泉 忠氏による
「非対称分析から見えること,見えないこと 」
として発表がなされ,首都大学東京の中山 厚穂氏による「マーケティングにおける非対称データの活用」して応用場面の問題点が提起され,その後ラウンドテーブル参加者と活発な議論がなされた.

2年間の研究部会活動として外部研究者を招いた研究集会を開催する計画であったが,2020年2月~3月の外部環境の変化により開催できなかった.